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ワタミオーガニック新聞 
第25回Newspaper

きく芋の栽培モデルをつくる、倉渕農場の取り組み

きく芋の栽培モデルをつくる、倉渕農場の取り組み

“天然のサプリ”といわれる健康野菜、きく芋

「きく芋」という作物の名前を聞いたことがあるでしょうか?
近年、健康野菜として注目が高まっているきく芋。「きく芋」と呼ばれていますが、ゴボウと同じキク科多年草で、ヒマワリ属の野菜です。きく芋は、サツマイモなどほかの芋類の主成分であるデンプン質をほとんど含みません。その代わりに豊富に含まれているのが、イヌリンと呼ばれる水溶性食物繊維。食生活が偏りがちな現代人の健康に役立つ“天然のサプリ”として、期待されています。

近年、健康野菜として注目が高まっているきく芋

ワタミファームでは2020年の春から、「もっと人の健康に、有機農業の拡大に貢献したい」という思いで、有機きく芋の栽培をスタートしました。なかでもワタミファーム最大のきく芋栽培拠点が、群馬県榛名山麓の標高700mの位置にある倉渕農場です。きく芋自体は全国的に栽培されていますが、もとは北アメリカ原産の作物のため冷涼な地域のほうが栽培しやすく、標高が高く冷涼な倉渕農場を中心に、きく芋の栽培に取り組んできました。

徐々に栽培面積を拡大し、3年目となる2022年は4.5ヘクタールの農地を使い、80t以上の収量を目指しています。

きく芋の特徴は、ビックリするほど旺盛な生命力!
春に種芋から発芽すると、夏の太陽の光を浴びて草丈3~4メートルもの大きさに育ち、秋に直径10cmほどの菊のような黄色い花を咲かせます。寒さが増してくると、地中にイヌリンをたっぷり蓄えた塊茎をつくります。11月、地上の茎が霜にあたって枯れた頃から収穫がスタートします。

まだきく芋の生産者は国内に少なく、栽培技術の知見も少ないため、その栽培は試行錯誤の連続。今年、3回目の収穫を迎えた倉渕農場でも、毎年工夫と改善を重ねています。

春に種芋から発芽すると、夏の太陽の光を浴びて草丈3~4メートルもの大きさに育つ
秋に直径10cmほどの菊のような黄色い花を咲かせます。寒さが増してくると、地中にイヌリンをたっぷり蓄えた塊茎をつくります。11月、地上の茎が霜にあたって枯れた頃から収穫がスタートします。

加工のためのきく芋栽培、全体最適を目指して

倉渕農場のきく芋栽培の特徴は、「加工用」に栽培を行っていること。
きく芋は、他の根菜類とは違い長期の保管が難しいことが特徴です。そのため、全国的に生鮮としては出回っておらず、冬期の道の駅などで見かけるくらいです。栄養価は注目されながら、なかなか認知度が上がらない一因もこの流通性の悪さがあげられます。

そのため、ワタミファームでは当初から6次化を見据え、商品として加工することを前提にきく芋の栽培に取り組み始めました。

そこで、今回目指したことの一つが、適正な大きさと形です。一般的に作物の出荷はkg単位で価格が決まるため、収量の最大化、効率化を目指すためには一つ当たりは大きいほうが生産者としてはうれしい。
けれども、きく芋は大きくなりすぎると、ごつごつとした複雑な形で成長することが分かってきました。

サイズの違うきく芋
きく芋は大きくなりすぎると、ごつごつとした複雑な形で成長することが分かってきました。

こうなると、すき間に土や石が挟ってしまい、洗浄の際の手間が増えるなど、加工には不向きなものになります。農地で低コストで収穫ができても、加工時のコストが上がってしまい、商品製造までの全体を考えたときにはかえってマイナスになることも。これでは6次化としては成り立ちません。

これら加工時の生産性を見据え、きく芋がなるべくきれいな丸い形に育つにはどうすればいいか、今年の栽培方法を検討しました。

これまで倉渕農場で栽培するきく芋は、他の農場や一般に出回っているのものと比べると、かなり大振りでいびつな形が多いことが特徴でした。そこでまずは芋を肥大化させる栄養分が過剰との判断から、前作と比べて肥料の量を抑え、土壌の栄養バランスを調整。

そのうえで、今年は平地栽培から15㎝ほどの畝を立てた畑に変更。これには、大きく3つの目的がありました。

【倉渕農場 3年目のきく芋畑】

倉渕農場 3年目のきく芋畑

①通気性・排水性の確保:
昨年水はけの悪い畑の収量が明らかに少なかったこと、栽培期に茎や葉が密集することで湿度がこもり病気発生しやすくなったことから、それらを改善し予防する。
②生育範囲の制限:
きく芋は縦横に成長していくため、畝幅を狭めることで肥大化を防ぎ形の均一化を図る。
③収穫効率向上:
地中深く成長するきく芋の掘り出しやすくする。

今年はまだ収穫途中ですが、比較的丸い形の芋が増えたこと、収量が前年比1.5倍になった畑もあり、一定の成果があったと考えています。

農業の6次化事業を志してワタミに

倉渕農場の堀内農場長

倉渕農場担当の堀内さんは、ワタミに入社して5年目。大学の農学部を卒業後、「畑で仕事をしたい」「農業の6次化に関わりたい」という強い思いをもって社会人となりました。
「1年目で配属された長野県の東御農場で、指導してくださった上長や地域の方々から農業者として多くのことを学ばせてもらいました。農業は当たり前ですが、自然のリズムが優先。人間の都合よりも、気候や作物の生育に合わせて作業を組み立てることの重要さを身をもって知りました」

2年目からは倉渕農場に配属。これまで倉渕農場ではキャベツなど外食向けの有機食材の生産をしていましたが、これからは6次産業化を通じて、農場として収益を高めていくことが求められています。そこで近年はきく芋、生姜、ニンニクといった付加価値をつくりやすい作物を有機栽培し、自身の希望を実現すべく栽培から商品化に向けて奮闘しています。

「真冬の農閑期は畑の外に出て、加工場の担当者やバイヤーなど、いろいろな人に会って話をすることを心がけています。菊芋の加工工場では実際に洗浄や選別・トリミングの作業も行いました。次の工程がイメージできることで、畑での意識も変わります。それによって、求められている作物の規格や細かな状態などがわかり、本当に必要な作業と省けることが明確になりますから、農場として採算をとることにもつながっています」

地域資源を活用し人にも地域(地球)にも役立つ農業を目指す

倉渕農場では地域の企業から出るコーヒーかす、牧場や養鶏場から出る牛ふんや鶏ふんを使った堆肥を熟成させ、土づくりに利用しています

有機栽培を行う理由は、作物そのものだけではなく、栽培過程においても自然環境への負荷を減らし、地球環境への貢献を行うことにあります。

その取り組みの一つとして、倉渕農場では地域の企業から出るコーヒーかす、牧場や養鶏場から出る牛ふんや鶏ふんを使った堆肥を熟成させ、土づくりに利用しています。牧場には倉渕農場で栽培した牧草を供給するなど、地域内での有機物循環にも積極的に取り組んでいます。

「自分たちが育てた作物が商品となって、全国展開されることはとても嬉しいです。今後の目標は、全国の身近な店で買えるような商品をつくり、多くの人に届けること。環境負荷が少ない有機農業により、きっちり収益を出していくことが、未来の子どもたちに健全な環境を手渡すことにつながります」

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